羊は柵を越える

9/13
前へ
/13ページ
次へ
カラン。黒マントの内側に吊り下げていたランタンが音を鳴らす。 小さなランタンで仕事用ではない。 夜道を照らすものだ。 今考えると、どうしてこのときにこんなことをしたのかわからない。 こんなことーー羊に対して鎮魂歌を捧げていた。 歌に合わせて木々がざわめく。風も吹いてきた。 羊の身体から魂が抜き出て、揺らぐ。 色は白い。動物も色を持っているんだな。 「っ!」 俺は今、無意識に羊を見下していなかったか? 同じ血を通わせた生き物なのに、人間より下だと決めつけていなかったか? その人間すらも金の一部としてしか捉えていないのでは? 仕事だから、と感情を後回しに片づけていた。 それは命への冒涜。 師匠の言う通りだ。 命々屋には向いていないかもしれない。 でも。それでも! 羊の魂をランタンにくべた。 白は光。すべての色を混ぜたもの。すべての…。 この魂の中に多くの命を見た気がした。 命々屋としてやっていきたいか。 答えは見つかっていない。 俺がわかっているのはやめたくないことだけだ。 羊のこと。 終わることのない争いに身を投じなければならなかった者たち。 その命も羊とかわらないこと。 その不思議。全部、全部、全部。 この胸の内をさらけ出してしまいたい。 無性に師匠に会いたくなった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加