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彩羽の言葉に朱里は納得してない表情を浮かべて俯いた。
そんな朱里に彩羽は言う。
「死んだ人は戻ってこないよ。朱里ちゃんがまっすぐ前を見て生きていかなきゃ。きっと雪ちゃん、見守ってくれてんだからさ」
まだ納得していない様子の朱里だったが、気を取り直すように背筋を伸ばして正座した。
「滝川に帰ります。社長に会ってから帰りたかったけど、いつまでも仕事休めないし…向こうも結構大変なんで。社長とマリアさんによろしくお伝えください」
「うん、分かった。気を付けて帰ってね」
朱里はもう一度軽く頭を下げると、その場に立ち上がり、大きく深呼吸をした。
明日からまたいつもの毎日が始まる。なんてことない、ただ仕事をこなすだけの毎日が……。
彩羽もソファから立ち上がると、食事中だった架音と美乃梨も立ち上がった。
玄関まで三人に見送られた朱里は、最後はぎこちない笑顔を見せて帰っていった。
扉が閉まった瞬間、彩羽は目を閉じて俯いた。
人の人生に関わろうとするとこういう目に遭う。自分は何も悪くないのに、何かできたのではないか…そんな気になってしまう。どうやったって無理なのに――。
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