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カラン…と、氷がグラスに落ちる音が響く。その後にシュワシュワとサイダーが氷に注がれる音が響いた。
播磨伊織はよく冷えたソーダを一口飲むと、肩の力を一気に抜いた。
「そろそろあの問題に触れたいなぁ……」
伊織が座るソファの背後から赤いハイヒールを履いた脚が近づいてくる。コツコツと音を鳴らしながら、今にも崩れ落ちそうな薄汚れた木目の床を自由自在に歩く姿は美しく見えた。
「あの問題って?」
女が訊いた。
「ああ…君は知らないか。でもまあ…見てたら面白くなると思うよ」
「また私の知らないところで、一人で楽しむ気?」
「そんなつもりはないさ。君にも手伝ってもらうよ。だって…ちょっとスケールの大きい話だからね。俺一人じゃどうにもできない」
「って言いながら、大事なことは何も話さないんでしょう?」
「話すよ。だけど今は内緒。俺が声を掛けるまで君は一切動かないでね。また彼女たちに手を出したら…ただじゃ済まないから」
播磨伊織が威嚇するようにそう言うと、女は真っ赤な口紅を塗った口唇の口角を上げてみせた。そして伊織が座るソファの背もたれに腰を下ろすと伊織の頬を撫で、そっと口唇を耳元に近づける。
「面白くなかったら…二人とも殺っちゃうから」
耳元でそうささやいた女に対し、播磨伊織はクスッと笑った――。
~消えた十字架・完~
次に続く……。(12月末頃更新予定)
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