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娘ちゃんは今日嫁に行く。
「結婚辞めるって言わないかな?」
「もう! その話、何回目よ!! そんなにヤなら、格好良くOK出さなければよかったでしょう!」
「59回目……だって、嫌なパパになりたくないじゃない……」
ママが吠える。俺がずっと燻って、無限ループの様に一人呟くこの事に苛立ちを押さえられずに、ここ最近は条件反射の様にキレてくる。
「それに、行ったら二度と戻らない訳じゃないんだから、そんな、もう会えないみたいに……何時代の人なのよ? おまけに、住んでる場所すぐそこでしょ!」
車で5分のアパートだ。
ずっと、大切に育てて来た俺の宝物。
いつも俺を追いかけて笑っていた大切な娘ちゃん。
少しくらいごねればよかった……いい恰好し過ぎたかも知れない。
それに、俺だけを見て笑ってくれなくなるって事でしょう?
く、くやしい……
「だって、もう俺の、俺だけの可愛い娘ちゃんじゃ---」
「あなたね……誰と結婚したの? ずっと、娘ちゃん、娘ちゃんって、可愛いがってくれるのはありがたかったけど、ちょっと、好き過ぎでしょう、百合の事」
「だって……」
「いい? これから、二人きりの生活になるのよ。私達の結婚にとっては初めての事でしょう? ねえ? そうやって考えたら、とっても楽しくならない? 20年以上経った初めての新婚生活だとおもって楽しみましょうよ!」
そう言ったママは、優しく微笑んで俺に手を差し伸べている。
細さは変わらないが、多少使用感の目立つしなやかな指を手に取った。
「分かったら、早速、私の事、名前で呼びなさい! ママ禁止! 2周目の結婚生活開始よ!!」
いつも、娘ちゃんを挟んだ生活だった。歩くときは娘ちゃんを間に入れて手をつないだ。寝る時も間において川の字になって寝た。いつも中心に娘ちゃんがいて、俺達を繋いでいたのかもしれない。
もう、彼女は中心にいない。
俺は、ずっと見ていたようで、ちゃんと見ていたのかあやしい、いつも娘ちゃんの肩越しに見ていた嫁ちゃんをこれから、ゆっくり見ていこう。
俺の娘は嫁に行った。
俺にも新しい2周目の結婚生活が始まった。
おわり
最後まで読んで頂いてありがとうございました。スター特典に同じテイストのショート2篇ありますので読んでって下さい。
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