第一話 雄三という男

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第一話 雄三という男

 私は済木雄三。  どこにでもいる普通のおじさんだ。  ちなみに歳は四十七。以前は妻も子供も居たが、二人とも死別して今は独り者だ。  その日、私は早朝の生暖かい日差しを背中に浴びながら、いつも通りの帰路をとぼとぼと歩いていた。  私の仕事は深夜の警備員。  工事現場なんかでよく見かけるやつだ。  いつもの事ではあるが、一晩中立っ放しの後の帰路は正直きつい。  これから出勤するサラリーマン達とすれ違いながら、私は呟いた。 「今日も暑くなりそうだな。夕方までしっかり寝られるといいが」  この仕事に就いてもう二年になり、昼夜逆転の生活パターンも慣れてきたとは言え、やはり寝不足はつらい。  昼間気持ちよく寝られるかどうかは死活問題なのだ。  シャッターが下りている繁華街の場末を通り過ぎ、いつものコンビニに寄ろうとした時、ふと私の耳に微かな鳴き声が聞こえた。  ニャー 「ん、ネコか?」  その声はコンビニの壁の向こうから聞こえて来る。  私はお店の前を通り過ぎ、壁の向こうを覗き込んだ。  するとそこにはダンボールが置いてあり、その中に子猫がいた。  拳二つ分位の茶色い縞模様のその子猫は、うずくまりながら私を見上げ 「ニャー」  と何かを訴えかけている。 「捨て猫か?」  私は放って於けない衝動にかられ、その子猫を抱き上げた。 「お前も一人なのか」  子猫は私の腕の中で目を閉じ、ゴロゴロと咽を鳴らし始めた。 「こんな俺でも、頼ってくれるやつがいるのか」  そう思うと、その子猫が無償にいとおしく感じてきた。 「よし、わかった。おれがもらってやるよ」  そして私はコンビニで朝食とネコ缶を買い、再び子猫を抱いて家路を急いだ。
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