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すべての準備が整い、私は息子と二人で入り口に立つ。心無しか、心臓がドキドキと音を立てている。
「なんか、緊張してきた……」
「えっ?」
「あんたの時も、こんな感じだった?」
「さあ、覚えてないけど……。まあ、たまには良いんじゃね?」
おどけたようにそう言って、息子が腕をつき出す。
「行くよ」
「……はい」
私は息子の腕に掴まり、ゆっくり歩き始めた。
視線の先には、モーニングを着た旦那が所在なさげに立っている。緊張している様子が見てとれて、少しだけ笑ってしまった。
旦那のもとへとやってくると、息子の腕から手を離し、今度は旦那の腕に掴まる。
「こんな感じでいいのか?」
「たぶん」
小さな声で言った旦那に頷き返し、旦那と共に歩き出す。一歩を踏み出す度に、これまでの事が思い出された。
付き合い始めの頃。妊娠が判った時の旦那の顔。親に謝罪に行った時の事。娘を産んだ時の事。などなど……。
知らず知らずのうちに涙が溢れてきて、私は目元を拭った。
結婚式とは、こういった大切な想い出を思い出す場でもあるのだろうか?
娘や息子も、同じ思いでこうして歩いたのだろうか?
「あいつらに、感謝しないとな」
「うん……」
私は頷き、さらにいっそう旦那の腕を強く掴んだ。
結婚式なんて、自分には縁が無いものだと思っていた。ましてや、ジューンブライドなんて……。
『ハッピーウェディング♪』
6月に結婚した花嫁は、幸せになれるという。
教会の外では、しとしとと雨が降り続いていた──。
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