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火葬場の炉の前で数人の人が棺桶を取り囲み最後のお別れをしている。
「父さん、お疲れ様でした。
ゆっくりおやすみください」
「あなた、おやすみなさい」
老人は棺桶の中の彼に代わる代わる話し掛ける家族を後ろから見守り、嗚咽する60年近く連れ添った妻に近寄って肩を抱き頬にキスをし、妻の隣で幼い子供のように泣きじゃくっている50代後半の息子の頭を優しく撫でた。
炉の中に棺桶が入れられ炉の扉が閉められる。
気がつくと老人は大きな川の川原に白い巡礼服を着て佇んでいた。
川岸に渡し船が接岸していて船頭が川原にいる人たちを手招いている。
船頭に渡し賃を払い暫し渡し船に揺られた。
対岸に着き船頭が指し示す丘の上に続く道を歩む。
丘の上に着いて一息つき周りを見渡した。
遥か彼方まで道が伸び、道の両側は色とりどりの花が咲き乱れ、周りの山々は青々とした木々が生い茂っている。
登ってきた道を見下ろしても渡ってきた川は見えず、彼と同じように巡礼服姿の人たちの姿が見えるだけだった。
巡礼服?
何時の間にか彼はカジュアルな背広姿になり、老人では無く20代後半から30代前半の若者になっている。
若者は遥か彼方の道の先に両親や兄たちの姿を見つけた。
上着のポケットから黄色いキャラメルの箱を取り出し、キャラメルを1個口に放り込む。
口に含んだキャラメルの甘さに口を綻ばせる。
口の中でキャラメルを転がし、若者は両親や兄たちの下に向かおうと黄泉路を歩き始めるのだった。
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