一 選秀女

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「杏! 大丈夫か!」 「大丈夫。ほんの少し傷を負ったけど」 「今夜は五人斬りか。さすがだ」 「五人なんかどうってこともないわ。あと五十人続いていたとしても勝てるんだから」 伊達に『戦いの異能』持ちじゃないわ、とひとりごちる。 「強いな。もはや敵なしだ」 村の用心棒的な役割をしている杏にとってその言葉は最大の褒め言葉。花の盛りの十五歳なのに、美しいや可愛いという褒め言葉より強いと言われる方が遥かに嬉しかった。 「血が出ているぞ。薬をお塗り」 英徳(えいとく)が跪き、茜の根で作った薬を杏の切り傷に塗り込む。茜は止血の効能がある。 「いたた! こんなのほっときゃ治るわ!」 「女子(おなご)なのだから。見える傷はその額の傷くらいで十分だろう?」 ちらりと杏の額の傷を見上げる。 「これは生まれつきだから」 「まさか。お前の母様が落っことしたのではないのか?」 「本当に生まれつきみたい」 岳陽(がくよう)英徳(えいとく)も全く信じていないが、杏は戦いの運命だと知らしめるように額に一文字の傷を持って生まれてきた。もっともその能力が存分に発揮されたのは、異民族の襲撃が始まったここ最近から、だが。
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