一 選秀女

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「橋の先にある花苑で待ちなさい」 門をくぐると、水の流れる音が聞こえてきた。目の前には曲線を描く橋が五つ。娘たちは心細さからか知らない者同士で塊になり、身を寄せ合い真ん中の白橋を歩いて行く。杏は優雅に流れる川のせせらぎを横目に、真ん中を避けて橋を渡った。何人かが杏に続いた。 龍は皇帝を象徴していると習った。今、真ん中の橋には龍の意匠が掘られている。つまり、絶対に踏んではいけないものなのだ。 試されているのだと杏は気づいた。わざと案内人を付けずに娘たちだけで歩かせ、素養や内面を見ている。四次にもなれば見た目以外の部分が対象になるということだ。 周囲を見ると娘の人数がかなり減っている。先程の五つ橋でかなりの数が失格の烙印を押されたのだろう。 引き続き歩んでいると、視線を感じふと立ち止まった。前方にいる四、五人の使用人の塊が何故か杏を見ているではないか。彼らは一様に気難しい顔をし、ちらちらと杏を伺ってはなにやら話し合っている様子。 彼らは頷き合い、ついにこちらに向かって大股で突き進んで来る。じわり、汗が浮かぶ。一候補でしかない自分が目をつけられる理由など、一つしかないだろう。 ――入れ替わりが暴露(バレ)たんだ! 九族皆殺しという言葉が脳裏に浮かんだ杏は咄嗟に逃げ出した。
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