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陽は中天に達し、柔らかい風が吹き抜けた。
彼は太湖石という石灰石で高く積み上げられた築山の上に建つ亭台楼閣で、属国から献上された花茶を口に運びながら庭園の景色を眺めていた。
広大な池泉を中心に園路が巡らされ、石、木、橋、亭で彩られている。緩やかな曲線を描く池には、九回折れ曲がる九曲橋や半円型の太鼓橋がかかる。
水面は鏡となって柳の葉や水際の花を映し、橙の鯉が餌を求めて口を開いた泡が浮かんでは消える。海棠は桃色の花が満開。
風光明媚な景色だ。
彼は茶器を几に置くと、袂に手を差し入れ巻物を取り出した。花鳥模様が織られた緞子の布地を広げれば、宮廷画家に緻密に描かせた女子の姿絵が現れる。
柔らかく愛らしい面差しの娘。
将来の妻となる彼女には、まだ会ったことはない。人となりを深く知らない。
だが、描かれた絵に過ぎないこの娘の名も、声も、喋り方も、彼は知っている。
愛していると彼に囁きかける甘い声も知っている。
目を閉じれば鮮やかに浮かび上がり、眠りにつけば夢の中に現れる。
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