一 選秀女

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「木っ端微塵? 腹に何を隠し持っている……?」 「火薬……?」 「西方の武器……?」 得体の知れない脅威を前に、兵たちが攻撃しあぐねているその時だった。 「なんの騒ぎだ」 立派な黒馬に跨った男が颯爽と現れた。黒光る甲冑を身に纏い、腰には幅のある大剣を帯びている。兜は被っておらず、駿馬の尾のような長い髪と外套(マント)が北風に波打つ。 「た、大将軍殿……!」 鋭い三白眼にじろりと睨まれた杏はあまりの冷たさに血まで凍てつきそうになった。冷酷で、無機質。身に纏う気が明らかに他の兵とは違った。大将軍と呼ばれた男の元に兵が駆け寄り耳打ちをする。 「馬鹿な。こんな小娘が何を仕込んでいるという?」 ――ぎくっ。 「し、しかし腹のあたりになにか隠している素振りを」 将軍がひゅ、と指笛を吹いた。彼が何をしたのかが分からずその場にいた全員が眉間に皺を寄せる。音が近づいてきている、と認識した時には杏は頭から黒い塊に襲われていた。 「ぎゃー!?」 鋭い切先に首筋を引き裂かれ、あたたかいものが鎖骨に伝った。
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