一 選秀女

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滅茶苦茶に拳を振るって抵抗するが空を切るばかりで命中しない。殺気が遠ざかり右左を見るが姿がなく、一体何に襲われたのか分からない。再び殺気を感じ頭上を見ると黒翼を広げて旋回しながら狙い定めているものを見つけた。 塊の正体は(たか)だった。 「ひぇっ……」 小さな子供くらいなら天空に(さら)っていけそうな大きな鷹は鉤爪(かぎづめ)を広げて急降下してくる。首を攻撃されぬよう咄嗟に頭をかばう。鷹は主人の意思を忠実に汲み、杏の腹部を狙った。(くちばし)で衣を突かれ穴が空いていく。 「ちょっとー! 痛っ、いだだだだ! やめてー!」 あっという間に肌が露出した。――生娘なのになんという辱め! 杏の無策をしたたかに暴いた鷹は主人の肩へと舞い、翼を閉じ木彫りの置物のように落ち着く。 「見ての通り大法螺(おおぼら)だ。さっさと捕らえよ」 「かかれ!」 兵たちがわっと襲いかかってくる。怪我を負っても杏は戦いの異能持ち。四方八方から注ぐ刀を次々と(かわ)し、時に攻撃しながら抵抗を繰り広げる。 「ほう?」 将軍が降馬し、杏の元に歩んで来る。彼と対峙し、そこから一体何が起こったのか――杏は一瞬で石畳の上に倒されていた。
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