4248人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
「睿。この者は私の大事な客なのだよ。私の手配が悪く騒がせてすまなかったな」
彼は何でもなさそうに責任の所在を自分にあると明言、襤褸切れと化した杏の肩にそっと布をかけ、男たちの目に晒された肌を隠してくれる。ざわめいたのは兵たちだけじゃない。他ならぬ杏が一番驚いている。初対面の美丈夫が、自ら泥を被ってまで自分の命の危機を救ってくれているのだから。
「しかし……」
「この者はそなたが清遠県から連れて来た娘で間違いないな、白殿?」
その人が狐に訊く。さきほどは知らない女と見捨てられたのだが。
「そうだッ! 何をやっておるのだお前たちはッ! 殿下の大切な客人を私がお連れしたのだぞーッ!」
――えええええ!? 狐の寝返り返し!?
「そういうわけだ。後は頼んだぞ、大将軍殿」
ぽん、と肩を叩くと将軍は礼をとる。
「白殿と杏は私と共に来るのだ」
「う、うん!」
「御意」
苦い視線を送ってくる将軍を置き去りにし、踵を返した彼の後ろをついて数歩。杏は首を傾げた。――あれ? 私って彼に名を名乗ったっけ!?
最初のコメントを投稿しよう!