4242人が本棚に入れています
本棚に追加
その男が杏が相手をしたちょうど百人目だった。
「……ア゛ッ!」
体液を吹いた男の全身から力が抜け頽れる。太腿に頭を挟んでいたからだろう、唇の端から涎を垂らしどこか恍惚とした表情のまま果てた。杏は起き上がり寝技で乱れた衣を整えながら、すぐそこまで近づいてきている複数の足音を聞いていた。
どうやら今夜は息を吐いてる暇はなさそうだ。
入口から数歩離れた場所に立った杏は、無遠慮に家屋に踏み込むつま先が見えた途端額目掛けて歓迎の短剣を飛ばした。
骨を突く小気味良い音が鳴り、柄に血液を迸らせながら百一人目の男は真後ろに倒れる。男の着ていた異民族らしい皮衣の上着に赤黒い血が染み込んでいく。
続いた百二人目、百三人目、百四人目の男たちは足元に転がっている仲間二人を見て激昂。杏の知らない言葉で何か言うと腰の刀を握り、狼の咆哮のような声をあげて襲いかかってくる。
「ふっ!」
横薙ぎする一太刀も、激しい突きも敏捷に躱す。相手の刀は空を切り、一尺の差で届かない。杏は素早く一人目の懐に入り、顎に拳を振り上げる。鼻血を吹き出し軸を失った一人目の男の胸板を、二人目の男の方に蹴りで飛ばすと、二人まとめて柱に身を打ち倒れた。
最初のコメントを投稿しよう!