一 選秀女

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右側から迫り来る三人目の白刃が肌を掠めた。小さな痛みを感じながら地を蹴って顔面に飛び蹴りを喰らわす。ぎゃ、と血を吹いて倒れた男の刀を素早く奪い、掌に突き刺した。床に(はりつけ)られた断末魔の悲鳴が轟く。痛みに喚いている男の腰からもう一本の刀を奪う。 その間に一人目と二人目が体勢を持ち直していた。二人は中空で刀を構え、目で合図をし、呼吸を合わせようとしているのが分かる。杏はじりじり間合いを取りながら、それぞれの力量を値踏みし、出方を待っていた。 一人目が身を躍らせ刺突を送ろうとしてくる。それが杏に届くよりも先に杏の刀が男の肩を突き刺した。 二人目の満身の力が漲る一撃は、刀で受け止めた。瞬く間に二十手ほど交わす。体格だけ見れば優位なのは男の方なのに、男は何故か自分が圧倒され後退りしていることに奇妙に感じているようだ。 杏の刀から繰り出る一太刀を、力を奮い刀で遮る。互角だったのもそこまでで、さらにもう一手で男の刀が両断された。 武器を失い身一つで襲いかかってくる憎たらしい足を払うと丸太のように転がった。杏は馬乗りになり、俊敏さに欠ける太った大男の肋骨に圧をかけながら顔面に続々と拳をふるまう。
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