怪盗アプリコット・ムーンと憲兵団長ウィルバー

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怪盗アプリコット・ムーンと憲兵団長ウィルバー

 彼女と同じ名前の赤みがかった黄色の月(アプリコット・ムーン)が夜空に輝いている。その明かりの下で、濃紺の背景に溶け込んだかのように、ぴったりとした黒服のシルエットが宙を翔ける。 「いたぞ、こっちだ!」 「今夜こそつかまえてやるぞアプリコット・ムーン!」  小柄な影は女性特有のプロポーション……膨らみを帯びた胸と膝丈のスカートで隠された丸みのあるお尻、すらりと伸びた羚羊(カモシカ)のような脚を映し出している。  俊敏な動きで周囲を惑わす黒い影の正体はこの新大陸ラーウスを騒がす正体不明の女怪盗アプリコット・ムーン。  彼女が盗むのはラーウスに古くから存在する“(まれ)なる石”ばかり。宝石のようにキラキラしているものがほとんどだが、最近は設営されたばかりの博物館や美術館に飾られた化石や原石、果ては庭園の石ころを奪っていくこともある。子どものイタズラと呼ぶには度が過ぎる度々の予告状と盗み、それを面白がる人間たちによって、いつしか王国の憲兵団も血眼になって追いかけるようになっていた。 「ふふっ、今夜も怪盗アプリコット・ムーン様が“稀なる石”をいただいていくわ」
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