最後の微笑み

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最後の微笑み

「ああ、良い格好ですね」  そいつは嘲るような視線で私を見た。 「本当は、こんなことをしたくはなかったのですが」  そう言って、冷たい笑みを浮かべる。  悔しくて悔しくて泣けてくるが、猿ぐつわを噛まされ手足をしばられている私には、抵抗する術がない。  とあるミッションを受け、この男に接触を試みた私だったが、相手の方が一枚も二枚も上手だった。  騙していたつもりが逆に騙され、今こうして拘束を受けている。 「残念ですよ。あなたとは、もっと違う形で出会いたかった」  私の髪を撫でながらそう言うものの、本気か冗談か分からないような口振りだ。 「そろそろ薬が効いてくるでしょう。大丈夫、苦しくはないですよ。眠るように逝けますから」 『ゲスやろう!』  そう言ったつもりだが、猿ぐつわをされた口からは「ん~っ!」といううめき声しか出ない。  そんな私を見て口元を緩めると、そいつは再び髪を撫でながら言った。 「本当に気の強い女性(ひと)だ。あなたなら、他でもやっていけたでしょうに」  どういう意味だろうと思ったが、頭がぼうっとしてきて考えられない。薬とやらが効き始めたのだろうか?  ふいに、男が姿勢を屈め顔を近付た。そして、額に唇が触れる。 「おやすみ、愛しい人。覚めない夢を……」  少しずつ体の感覚が無くなっていく。  涙で霞む視界の中で、そいつは微笑みを浮かべていた。  先程までの冷たい笑みではなく、哀れ慈しむような、そんな微笑みを……。 ───おわり
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