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湊が入ったバスケチームは、その昔とある実業団の選手として活動していた人が引退後作った、小学生中心のチームだった。
練習は週2〜3 回、週末が多い。
指導者は3人。
監督はこのチームの創設者である橋本監督。
40代半ばで、所謂『The 熱血』といった感じの熱い指導者だ。
その他にコーチが2人。
1人は実業団の後輩で、今は実業団も引退して普通のサラリーマンとして働いている、林田コーチ。
年齢は30代半ばで、仕事が忙しく練習にも来られる日と来られない日がある。
もう1人は林田コーチの大学時代のバスケ部の後輩で、普段は理学療法士として病院に務めている、白石コーチ。
年齢は30代前半。
白石コーチは、とても優しくユーモアもあって、監督や林田コーチよりも群を抜いて子供たちに人気があった。
子供たちからだけでなく、その母親たちからも絶大な人気を博していた。
「白石コーチってカッコいいよねー!教え方も上手だしさ。監督よりも絶対指導者に向いてると思わない?」
湊をこのチームに誘ってくれた祐樹君のママである和美ちゃんが、目をハートにしてそう言ってきた。
「えー、そう?カッコいいかな。まあ、教え方が上手ってのは確かにそうだね。」
「でしょ?白石コーチはさ、ちゃんと褒めてくれるじゃん?うちの祐樹なんてちっとも上手にならないけどさ、3ポイントシュートが入ったときすっごく褒めてくれて、それで祐樹ったら俄然とやる気出しちゃってさ。そっからよ。レギュラーとるって張り切りだしたの。」
「へえ。そうなんだ。褒めて伸ばしてくれるのはいいよね。」
「うんうん。湊君だって白石コーチにはなんだか目をかけてもらってる感じじゃない?」
「うーん、そこはよく分かんないけど…まあ湊も白石コーチのことは好きみたい。」
よく分かんないと言っておきながら、内心実はそうなんだよなと密かに思っていた。
湊がこのチームに入ったばかりの時、バスケ未経験だった湊に基礎を教えてくれたのが白石コーチだった。
ドリブルの仕方やシュートフォームだけでなく、基礎体力をつけることが大事だと言うことを、子供相手に分かりやすく丁寧に説明してくれた。
湊もコーチに言うことを忠実に守り、みるみると上達していった。
そして、自分の言うことを素直に実行して上達していく湊のことを、白石コーチは気に入ってくれたようだった。
そんな白石コーチに私は、好感を持っていた。
ただ、好感を持っていた。
このときは、ただそれだけだった。
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