1

3/10
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
その後も順調に交際は進み、私が大学を卒業するタイミングで同棲をすることになった。 2人で借りたマンションは、山手線のとある駅から徒歩15分の5階建ての3階の部屋。 2DKで、2人で住むには充分な広さだった。 私は食品会社の事務の仕事に就いた。 仕事内容はごく単純な事務作業で、特にやり甲斐を感じる程の仕事ではなかった。それでも人間関係は良好で、先輩たちは皆気さくで人懐っこくて、人見知りの私でもすんなりと馴染むことができた。 だから毎日仕事に行くのはそんなに嫌ではなかった。 9時〜17時の一般的な業務時間だった私に対して、夫は相変わらず居酒屋勤務だったため、毎日昼から出勤して終電で帰ってくる。 休みも合わせるのが難しく、一緒に住んでいてもなかなか顔を合わせるタイミングがなかった。 それでも、一緒に住んでいなかったらもっと会えずにすれ違い過ぎていただろうから、同棲したのは正解だったと思う。 仕事帰りに家の最寄り駅で夕飯の買い物をする。 料理の腕にはまだまだ自信はなかったけど、夫が何が好きか、何が苦手か、どんな献立にしようか、そんなことを考えながら買い物をしている自分に時折心の中でニヤついたりしていた。 私の作った料理を、終電で帰ってきた夫が食べる。 眠い目を擦りながら、夫が食べる様子をテーブルの向かいに座って眺める。 「美味しい?」 「美味しいよ。」 たったそれだけの会話が、幸せ過ぎてたまらなく、部屋の中を優しい空気が包み込む。 この人となら、一生一緒にいられる。 絶対幸せになれる。 そう信じた、23歳の頃。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!