永遠の眠り

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人里離れた山奥で数人の男たちが深い穴を掘っていた。 穴の深さが1メートルを越えた頃、作業に加わらず他の男たちが穴を掘るのを眺めていたリーダーらしい男が穴を掘っている男たちに声を掛ける。 「穴はそれくらいで良い、次の作業に移れ」 リーダーの言葉に従い男たちは穴の底に金属ロッカーを横たえるように設置。 そのロッカーの中に、裸にオムツを四重に履かされ薄い毛布を羽織る5~60代の意識の無い男を横たえた。 意識の無い男をロッカーに横たえた男たちは横たわる男の手首に点滴の針を射し、鼻の穴に酸素ボンベから伸びる管を押し込む。 それらの作業を終え男たちは次々と穴から出る。 最後の男がロッカーの扉を閉め、扉を軽くコンコンと叩き「暫く休んでな、おやすみ」と声を掛けた。 その言葉に、先に穴から出ていた男たちの1人が反応し「永遠の眠りになるかもな」と言い、それに「「「ハハハハハハ」」」周りの男たちが笑って賛意する。 一頻り笑った後、リーダーが穴の中の男に問う。 「点滴と酸素は持つんだろうな?」 「はい、点滴の睡眠薬入りの栄養剤は3日程、酸素は1週間程は持ちます」 「なら良い」 男たちは穴を埋め戻しスコップ等の道具を持って下山した。 高級住宅地にある駐車場に男たちを乗せたワゴン車が止まっている。 後部座席に座っているリーダーが助手席の男に声を掛けた。 「盗聴機は仕掛けてあるな?」 「はい、1週間前ガス会社の職員を装って訪問し仕掛けました」 「良し、じゃあ電話を掛けるから皆静かにしてろよ」 リーダーは闇サイトで購入したスマホを取り出し、生き埋めにしている男の家に電話を掛ける。 呼び出し音が数度鳴ったあと「はい、三木です」と言う女の声が聞こえた。 「良く聞け! 俺はあんたの旦那を預かっている者だ。 生きている旦那と会いたいければ1億円用意しろ。 警察に通報するなよ、また、電話する」 リーダーは相手の返事を待たずに電話を切る。 電話を切ったリーダーは助手席の男に指示した。 「盗聴機のボリュームを上げろ」 『母さん、誰からの電話だったの?』 『そ、それが、お父さんを預かっているから1億円用意しろって』 『え、警察、否、イタズラかも知れないから父さんに電話だ!』 リーダーが隣に座っている男に問う。 「オイ、奴のスマホはちゃんと破棄してあるよな?」 「はい、地面に叩きつけた後川に投棄してあります」 『駄目だ、繋がらない。 イタズラじゃ無いのか?』 『どうしましょ、お金用意する?』 『否、警察に相談しよう』 『でも警察に通報するな、って言ってたわよ』 『そんなの誘拐犯の脅しだよ』 『で、でも』 『いいから警察に行くよ、用意して』 数時間後、盗聴機が女と息子らしい男以外の声を拾う。 『私たち2名が待機しますのでご安心ください』 「チッ、警察を呼びやがった。 今回は失敗だ撤収するぞ、車を出せ」 2週間後、「隣町のダム湖に流れ込む川の上流1キロ程の山奥を捜索してみろ、三木家の旦那が埋まっているから」と言う電話が、三木家の近所の家に掛かる。 電話を取った主婦の通報で警察が捜索した結果埋められたロッカーが発見され、中から酸欠に苦しみ金属ロッカーを掻きむしりのたうって死んだ男の遺体が見つかった。 ワゴン車の中で男たちの1人がリーダーに声を掛ける。 「やっぱり永遠の眠りについちゃいましたね」 「ああ、だが、2~ 3回の失敗は想定ズミだ。 このニュースが世間に周知されれば警察に通報せず、金を用意する奴も出てくるさ。 金をたんまり持っている上級市民はまだまだ沢山いるんだからな。 さて、次の獲物が決まるまで俺たちも活動をおやすみにしようぜ」 リーダーの言葉を聞きながら、男たちは次々と集まってくる新聞社やテレビ局の車を遠目に眺めていた。
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