6話:レンズの反対側 ―正義が牙をむく瞬間

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「でもそうしたら、どうして川崎君は?」 「俺たちは警察じゃないからさ、考える材料は全部与えられていない。だからどうしようもないよ。 何か悩みがあって、病んでいる状態だったからそういうバカみたいな動画を投稿していて、そのままメンタルが復活しなかった。 或いは、笈沼も含めた昔の仲間からの痛烈な批判を受けて、俺って何やってるんだろうってなって衝動的に死んでしまったのかもしれない」 「うう……」 「なんであいつが殺されるっていう事を言っていたか分からない。もっと言えば、本当にそう言っていたのかも分からない。 心理学の講義でのうろ覚えだけど、人って納得いく一連の流れを欲するところがあるらしい。 大富豪の家で主人が殺害される殺人事件が起きた、そして金に困っていた使用人が消えた。 こう聞くと多くの人間が、うおお動機は金でその使用人が犯人だ!なんて下劣な奴だ!と嬉しそうにさも自分がホームズになったかのような自己陶酔に陥る。まるで世界にそのふたりしかいないかのようなシンプルな答えを欲しがる。 そしてまた他の一部の人間は、使用人はきっと主人からひどいこき使われ方をしていたんでその復讐なんだ、金持ちは最低だ!と謎の決めつけをしたりする。 どっちのパターンでも危険だ、自分のガチガチに固まった考えで平気でそれを真実であるかのような決めつけをする。そういう奴が、真実も確認しないまま疑われている人物の会社に嫌がらせ電話をしまくる……とか」 やけに饒舌に話し過ぎた。 「とにかくまあ……そういう事だから、今の俺らが真実を掴む事なんてそもそもおこがましいっていうか、野次馬根性でしかない。辛いかもしれないけど、ムリだよ。多分」 「じゃあ、その、うん、それは分かったんだけど、ちょっと僕、川崎君のバイト先に行ってみたいと思う」 「で、どうするんよ」 「バイト先での動画なわけだから、当時の事を知っている人がいるかもしれないから」 「あんまりやりすぎるなよ。当然、バイト先の人たちにだって川崎の死は伝わってるかもしれないんだから」 「うん。気を付ける」 彼の気持ちは確かによく分かる。彼への批判が間接的に川崎の死の原因になった場合は、笈沼自身が裁かれる事もない。そんな状態で、彼はこのまま何もなかった事にして暮らしていくのが耐え切れないのだろう。 自分に原因の一端があるのかないのか、それを知りたいという想いを止める権利は自分にはない。
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