7話:歌うハリボテの偶像

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「まあそれはそれでいいとして……もうウチもそのグループを抜けててソロでやってるんすけど、海野パイセン、正直なところウチに突破口ってありそうっすかね?」 「なんだい藪から棒に」 「オーロラカードさんに喧嘩を売ったのは揺るがない事実なもんで、あの当時ウチらはオーロラさんと、他のグループのファンの人らからも袋叩きに遭いまして……」 「そりゃまあ、仕方ないよね……。ブーメランってやつだし……」 「だけど、陽子ちゃん達もオーロラカードを軽く煽っただけなのにひどい目に遭ったんです」 「死ねとか、殺すとか、お前んちに毒ガス撒きに行くぞとか」 「うおぉ……」 「そしてパソコンモニターのファンはそもそも炎上好きなので特にウチらの味方をしないっていう……」 「一方的な袋叩きってわけか」 「それで何人かアイ・ラボ出る前に辞めたんすよ。想像をはるかに超えているって。前向きだったのは……デュラ・ハンさんくらいっすかね」 「まあメンバー兼仕掛け人みたいな感じみたいだし、ある意味成功だからね……」 「でもさ、炎上しまくっているところを見たらさすがにファンの人たちも味方しようとは思わないのかな……」 「そうっすね……ちなみにファンの呼称はキラーズなんすけど」 「めっちゃ海外の大物バンドっぽいな」 「キラーズ達は動画サイトとかに色んな切り取り動画をアップしてたんすよ、日常的に。でも、それがウチらの印象を悪化させるばかりで」 「そうだったよね。ライブで中指立ててる数秒の映像とか、あと脱いじゃってたメンバーとかいたよね……」 「いましたね」 「なるほどね、ある意味ではそのファンの人たちはオールフィラー……でいいのかな、のワルぶりを出す事で売る事の手助けをしてるつもりなのかもね」 「まあそういう売り方してましたからね……」 苦楽闇こと陽子は虚空を見上げるように固まる。 「それに、そういう売り方でだんだんブレイクしてきたグループだからこそ、古参ファンのプライドみたいなのもあるかもしれない。 俺はあのライブでメンバーがステージ上で自分の携帯番号を叫んだ時の映像を持っているくらいあの当時からのファンだぞ。待て待て、俺なんか売れてなかった頃にキャラ作りで迷走してただ罵詈雑言を叫んでいたライブにいた頃からの最古参だ、みたいな張り合い。それがオールフィラーの場合はウリとなる過激さがクローズアップされやすいから、結局メンバーみんなモンスターみたいに扱われている現状」 「そんな陽子ちゃんが今ここにいるのは、この先どうやってやっていけばいいのかという相談なのです」
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