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カラスと牛
水晶の玉の中に入った牛は、ひもでカラスの首に結ばれた。
「それじゃあ、頼むよ。」
「はい、神様。」
カラスはおとなしく神様にうなずいた。
「みつけたらここに連れてきておくれ。空に帰れるようにしてあげるからね。」
「よろしくお願いします。」
牛も水晶の中から神様に頭を下げた。
「さあ、それじゃいくぞ。そろそろ日暮れになってしまう。」
カラスはバサッと翼を広げて飛び立った。首に括り付けた水晶の中の牛は飛び立つときに、ひっくりかえりそうになりながらもなんとか踏ん張った。外を見ると海の中にポツンとある小島がみえた。落ちてきたときに、見たような気がする。しかし、いまは彦星様のお子のカヤ様をさがさないと。
神様から、天から来たものは地上のモノとは違うからきっとわかるだろうと言っていた。そうだといいんだが。
「おい、ちゃんと探せよ。俺はとりあえず高く飛ぶからな。」
「当たり前だ、言われなくても探すさ。カヤ様が今頃どんなに心細いか。」
「だいたい、なんで落ちてきたんだよ。ふつうは落ちるもんじゃなかろう。」
とんでいる間に牛はカラスに耳にアブが入ってきて、そのあとはよく覚えてないと言った。
「そのアブ、どうしたんだろうな。」
「どっかに飛んで行ったんだろ。」
「まあそうだよな。」
そんな話をしているうちに、カラスは空の一番上まで来てしまった。
「ここから上は天だから、行けない。」
空はずいぶんと暗く見え、星も手に届きそうだった。冷たく冷えた空気が水晶を通しても感じられた。天はこんなに寒くないのになと思いながら、地上にいるカヤ様を見つけようとした。
その時だった。どこからかカヤ様の声が聞こえたような気がした。
「おい、あっちに行ってくれ。カヤ様の声が聞こえた。」
「え、ホントか。俺には何も聞こえないけどな。まあいいや、お前は天の牛だからな。耳がいいんだろう。」
そういってカラスは牛の言う方向に向きを変えた。
「いたっ、おい、もうちょっとうまく飛んでくれないか。」
「ああ悪い。お前がいるのを忘れてた。」
水晶玉の中で、牛はカラスが向きを変えるたびに転がって頭をぶつけるのだった。空を飛ぶのは、もうこりごりだ。しかしカヤ様を見つけるまでは我慢しよう。
「あっちって、こっちのほうか?」
「ああ、今とんでる方だ。だんだんカヤ様の声が良く聞こえるようになってきた。」
「ふーーん。そうなんだ。そうだ、たしかもう少し行くと蛍池があるはずだ。あのあたりは蛍がたくさんいて、綺麗だぞ。」
「そうか。」
牛は興味なさそうに上の空でカラスに返事をした。
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