その頃地球では

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その頃地球では

「国民人工冬眠対策大臣、最後に残っていたイギリス地区とフランス地区の全国民が人工冬眠カプセルに入りました。  これで人工冬眠していないのは、我々だけです」  人工冬眠大臣なんて急に作られた役職を任された。任せた大統領は宇宙へと旅立った。ふうっと肩の力が抜け、役目は果たせたと笑みを浮かべる。 「そうか、ご苦労。我々もそれでは人工冬眠カプセルに入るとしよう。やっとだな……」 「やっとですね。と言っても、なんのトラブルもなくスムーズに、みんなカプセルに入ってくれましたね」    私たちも知らなかった。  大統領が就任時から世界中の人が地球上で人工冬眠できるように準備していたことを。  もちろん、当時の国民すべてに用意することなんて、無理だった。数が多すぎた。  でも、感染症で人口が減った今、全員が人工冬眠できるほどの施設を、大統領は、すでに各地の地下に完成させていた。 「大統領は、移住先を探しに行ったのに、逃亡したなどと言う噂が立ったのはひどかったな」 「大統領のそばにいれば人柄もわかりますけどね。でも、大統領のお孫さん、すごかったですね」  部下の口の端が上がり心からの笑顔が見える。  大統領のお孫さんの考えた説明と方法で反対派の動きもなく、あれからたった1か月で全国民の人工冬眠が完了する。  宇宙に飛び立つ大統領が、移民先を見つけて帰ってくると説明しても信じてもらえない……自分たちだけ逃げ出すくせにと思われると、トニーは言った。 「見事だったな。トニー・グリーン。全身モーションキャプチャーで年配の科学者に扮しての迫真の演技。自分たちは地下施設で、ワクチンと治療薬を開発するから、少しの間、人工冬眠して待っていてくれって。  人工冬眠中は、代謝に関連する遺伝子を抑制する。エネルギーを最小限で生きることができる。  しかも、筋肉の保護と維持に関与する遺伝子が適度に促進され、ほとんど加齢しない。  カプセルの中にはウイルスが入ってこないから、早くカプセルに入ったらウイルスに感染することはないと。だから、人工冬眠カプセルに入ってくれって」  全国民が納得して入った。 「おかげで私たちも思ったより早く冬眠できますね」  部下の瞳が笑顔を作り、私を見つめる。  トニーは私に言った。僕たちが帰るまで、そのままの姿で歳を取らずに待っていてって。人工冬眠したら大丈夫だからって。 了
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