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だから今は、第1客室部分に予備の小さな輸液合成装置があるだけ。今まで通りにしていれば、やがて、底を尽きてしまう。
非常事態には、大統領を起こして、指示を仰ぐことになっている。しかし、自分たちだけで地球から逃げることを決めた大統領だ。きっと、他の全員の栄養を切って、大統領の家族だけを生かすと言うだろう。
途方に暮れていると、コクピットにいるはずがない者が俺の瞳に映る。子供?
「おい、坊主、君は誰? ここで何してる?」
「ぼくは、トニー・グリーン。6歳。起きて寝ぼけてここまで来ちゃった」
トニー……俺と同じ名前だ。
トニー・グリーン、その名前を俺は知っている。失礼がないようにと船長から言われている。
この子が、地球連邦大統領の孫か……それにしては、素直な子だな。もっと威張ってるものかと思ったが。
「俺はチャイコフスキー。よろしく」
そう言うと、突然涙を流してしまった。
「どうしたの? おじさん」
「地球に君と同じ歳くらいの息子がいてね。ちょっと思い出しただけだ」
俺の妻も息子も一般人はみんな地球に置き去りだ。この子は大統領の孫と言うだけでここにいる。ダメだ。話題を変えないと。罪のないこの子を責めてしまいそうだ。
「寝てたんだろ。どんな夢を見てた?」
「あのね、チャールズくんと遊ぶ夢。追いかけっこしてた」
「子供っぽい夢だね。夢といえば、将来、何になりたいんだ?」
「おじさん、この宇宙船を運転してるの?」
俺は首を縦に振る。
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