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SIDE: トニー・グリーン
「おやすみ」
宇宙船操縦士の……トニー・チャイコフスキー 2等航空士の優しさがぼくの頬を撫でる。
「おやすみ。おじさん、いい夢見てね」
ぼくがそう言うと、
「ああ」
とチャイコフスキーのおじさんは、余裕のない戸惑いの表情を浮かべた。
胸のポケットに「トニー・チャイコフスキー」と名前があり、襟には階級章がついていた。
チャイコフスキーか……大昔のミュージシャンと同じ名前だなと思った。
今まで、いろいろなミュージシャンが各時代で活躍していたのに、なぜか、あの時代のミュージシャンの曲だけが今も残っている。そんなことを思いながら名札を見ていた。
ぼくは、チャイコフスキーさんが閉じたぼくのカプセルを再び開いて、またコクピットに向かう。
おじいちゃんは、ぼくの脳にすごく高額のメモリーチップを埋め込んだ。とてつもない容量のメモリーチップには、この世のありとあらゆる知識がインプットされている。この世のどんな人間よりも知識が豊富だ。
この宇宙船には、医者とか科学者とかも乗っている。でも、その人たちより、ぼくの方がずっと優秀だ。おじいちゃんの代わりに大統領の仕事だってできる。
それでも、やっぱり、身体は6歳の子供だ。さっき起きた時には、本当に寝ぼけていた。子供の身体は使いづらい。
非常事態が起きた時には、ぼくも起こすように船長が設定していた。おじいちゃんの命令だった。冬眠状態の時には、衝撃などでは起きない。CNO阻害薬を注射して初めて目覚める。
この宇宙船の構造やマニュアルも細かいところまで熟知している。
コクピットでやっと頭がスッキリした時にモニターを見て驚いた。その時にいた第2操縦室と第1客室以外は、隕石と衝突して生命維持機能が停止していた。
船長や上級クルーがいた宇宙船中央部の第1操縦室で操作する人がいなくなったと言うことだ。
チャイコフスキーのおじさんの操作画面から目が離せなかった。
この人は、どう判断をし、何をしようとしているのか。
10歳以下の子供だけ生かす……か……悪くない。悪くはないが……
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