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「若様、お寒いでしょう」
桐吾は甥である志弦の膝に外套を掛けてくれる。
「叔父上こそお寒うはござりませんか」
「私はこの通り鍛えておりますからねえ」
「ふふ」
志弦は童の頃と同じように、桐吾の肩に頭を預ける。私は義弟と息子がこうして睦まじい様子を眺めるのが堪らなく好きだ。心和む。
母親同様心優しく、我が子ながら聡明で、他人を惹きつける魅力を持っている志弦。健康でさえあったならと切ない思いもあるが、今、嫡男として努力を積み重ねている和眞を思えば……やはりこれは運命なのだと自分に言い聞かせざるを得ない。
恐らく儘ならぬ逡巡を抱えるのは私だけで、志弦自身はやはりここでの暮らしが水に合っているのだろう。東京にいた頃が嘘のように生き生きとした表情をしている。
逆に和眞は華族として誇り高く、将来の当主としての道を邁進している。兄に代わって家を守らんとする姿勢は健気でもある。
幼き頃より、その姿形や気性は私より亡き父に似ているように映る。故郷は大事だが都会の方が好きだとも言う。そこは娘二人も同じだ。
和喜は……なんと言うのか、あの子には、東京の本宅は狭過ぎたとでも言うべきか。もしも戦国の世であったなら、一廉の武将にでも成れたものをと残念に思う程度に元気なのだ。それがまた不憫でもあり、志弦と共にこの国元へ帰した。今は行儀見習いとして寺預かりだが、あの野性味溢れる子に行儀を教えねばならない僧達を気の毒にも思う。
「道が随分整っておりますな」
「嘉之丞が頑張ってくれるお陰だ。三原建設に於いては自分でも掘ったり埋めたりしているらしいぞ」
「筋骨隆々、三十五の男盛りでいらっしゃいますからねぇ」
馬車は冬枯れの山を走り、屋敷を北東へ坂を下った先に建つ笙寛寺に着く。門前では住職の隆寛上人の傍らに、和喜が待ち構えていた。
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