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  「私よりおまえだ。誰か好いた者はいないのか」 「いれば志津眞様から頼んで下さるのですか」 「無論だ。おまえは私の義弟、家族なんだからな。三国一の花嫁ならぬ花婿として仕立ててやろう」 「花婿ねぇ……もう三十四ですよ私は」 「三十四など早い早い。私で選り取り見取りならおまえはもっとだ」  互いに年を重ね、時代は移り、主も従もなく………私はやはり、おまえをこの手から解放してやるべきなのだ。 「家督を和眞に譲る際、桐吾には銀行と造船を任せる」 「私は表舞台に立つつもりはないとあれほど」 「和眞の後見はおまえを置いて外にない。あの子も心強かろう。東京に戻ったら少しずつ準備を始めるからそのつもりで」 「貴方様は……どうなさるおつもりです」  その時が来れば……子供達も其々に生きる力を蓄えていよう。最も気掛かりだった志弦にはジェイがいる。もう何も思い残す事はないように思う。 「先ずは船で外国(とつくに)を巡ろうか。いや、日の本を隅から隅まで流れるのもよい。もう関所もなければ徒歩(かち)でゆく事もない。誰に憚る事無く諸国を旅できる時代だ」 「私は何処へなりとお供致します」 「それではおまえを解放する意味がないではないか……」  意識が遠のく。
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