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  「父上ー!」  九つになっても無邪気に飛びついてくる姿が愛おしいが(はな)、洟を擤みなさい。  坂下が懐紙で拭いてやろうとすると、その坂下にも桐吾にも順々に飛びついて行く。和喜はこの二人が大好きなのだ。そして二人も私の子供達を心から慈しんでくれる。有り難い事だ。 「伯爵様、お帰りなさいませ」 「お上人、和喜が世話になっております」  隆寛上人は私が物心ついた頃には既に出家なさっておいでだったが、傍系ながら秋朝家の御仁で私の師でもある御方。いつも心大きく温かく、私や家族を見守ってくださる得難い存在だ。お年を召されても凛と(すが)しい佇まいは変わらない。 「和喜、はしゃいで転んではいけないよ」  墓所までの道すがらに手を取ると、驚いたようにまるい目で見上げて来る。まこと愛おしい。母親に抱かれた事のないこの子を不憫に思うが故に私が甘やかし過ぎていると(その)などは小言を言ったものだが、確かにそうかも知れぬなあ。  だが私はどの子も可愛い。娘達もそろそろ真面目に嫁入り先を考えろと周囲からせっつかれてはいるが、女学校を出るのは今少し先の事。出来れば考えたくない。  和鶴ならばどうするだろう。取り敢えずこんな私を呆れて笑うか。 「如何されました」 「いえ……この子の体温が沁み入るように暖かく、つい和んでしまって」 「童はみな宝、この世の救いにございます。殊に伯爵家のお子様方は皆々様お優しい」  差し出された掌の先。  先祖代々の墓所内に建つ和鶴の墓には既に花が供えてある。 「この白椿を和喜が?」 「はい! とても美しゅうございましょう! お隣のお庭から頂いて参りました!」 「判事殿のお(やしき)に忍び込んだのか。後でお詫びに伺わないと」 「忍び込んだのではありません! “ください” と言って頂いて来たのです!」 「ではそのお礼に伺わないとな」 「その折は伯爵さまにお供(つかまつ)ります」 「ふ」  どこで覚えたのやら。
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