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一
明治二十二年(1889年)師走。
白い船体は紀伊水道から大阪湾に入り、西に島を眺めながら進む─────
「旦那様、丹羽の山が見えて参りました」
「ああ、やっとだ」
国力を挙げ鉄道が敷かれ西へ東へ延び続けてはいるが、大型船が着岸出来る港を備えた国元へはやはり船旅が一番だ。
秋朝家の国元(旧領地)は古来より水運、殊に海運業が盛んで、江戸後期から阿蘭陀・清国を主とした外国人が流れ込み、現在の『外国人居留地』を造り上げるに至った。
山と海の両方を有し、長閑な農村と漁村、商人が行き交う市街地、そして外国人居留地が混在する私の故郷は豊かであると思う。
─────懐かしく愛おしい私の丹羽。
政府の方針により華族はみな帝都東京に住む事が定められているものの、ここ数年に渡る関東での暮らしは正直水が合っていない。参勤交代が廃れるまでは江戸の上屋敷に住んでいた事もあるらしいが、幼かった事もあり大した記憶もなく……
そもそも中央の変貌ぶりを思えば、あの都会は私の様な田舎者が馴染める土地ではない。視察と称しこちらに帰ってくると漸く息が出来る心地なのだ。
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