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丹羽の山々は嘗ての領内を東西に端から端まで走っており、自然の城塞と言えた。猫の額のようではあれど、天守から眺められる城下と海、その景色を物心ついた時から愛して止まなかった。
あの町では山があれば北で海があれば南。迷いようもなく決まっている。
「岬の灯台がもうあんなに近くに。どうぞお支度を。港では家臣達をはじめ民がみな旦那様のお帰りをお待ちにございます」
「家臣だ民だと……もう殿様でもあるまいに」
「時代が変わろうとも、城が無くなろうとも、殿は殿なのです。まして国元の今日の繁栄は先代志喜公と旦那様が基礎から築き上げたものではございませぬか」
「皆が働き者だから栄えたのだ」
「⋯⋯⋯⋯」
五十年近く我が家に仕えてくれている家令の坂下暢治は、眉尻を落とし溜め息を吐く。が、実際そうなのだ。
大政奉還が奏上されたその年。
父が四十半ばで他界し、家督を継いだ時の私は僅か十四。前髪を落としてもいない童だった。
時代が激しく動く中をそれでも切り抜けられたのは、全て陰日向なく支えてくれた家臣や民達のお陰だ。年端もゆかず頼りない私を、皆が『当主』として守り育ててくれたからこそ今の地位がある。
「公庁舎も学校も居留地も、もとは秋朝家の私財。全ては御一新前から港や道路の整備に尽力されてきた先代と旦那様の先見の明が」
「鐘の音だ!」
船の最上階のその上。甲板へ向かって階段を駆け上ると、坂下は下から声を大きくする。
「その様な薄着で外に出られては! 殿に風邪を引かせてはわたくしが」
「もう殿ではないと言うておるだろ───」
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