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世界
こうした入れ替わりの日々が続くうちに、徐々に変化が訪れていった。
記憶がない時にアクティブなのは変わらないが、そうでない時も徐々に外の世界に関心を持てるようになってきたのだ。
会社をやめてからずっと、何もする気にならなかったが、他のことに関心を持てるようになってきた。それにもう1人の人格が勝手に連絡をした友人とは今も連絡を取り合っている。
そうしている内に、徐々に自分ともう1人の人格との境界線がぼやけてきていた。今日は俺なのか、もう1人の人格なのか。意識があるのか、ないのか。良く分からなくなってきていた。まるで自分が自分ではないような感覚がしばらくが続いた。
ただその感覚に恐怖心はなかった。むしろ心地良さを覚えるくらいだった。今までの自分が死んでゆき、代わりに別人格が溶け込んでいくような感覚。
気がついた頃には、もう別人格との入れ替わりはなくなっていた。そして世界には色彩が戻っていた。もう別人格に入れ替わることはないだろう。
今の俺はもう、人と関わることは怖くない。外の世界にも関心を持てる。
きっともう1人の俺を通じて、世界との向き合い方を思い出したのだと思う。もう俺は1人で生きていける。
明日は何をしようか。そろそろ仕事を探しに行ってもいいだろうか。それとも気の向くままに散歩でもしようか。
今の俺には何だって出来る気がした。それもこれもすべて、もう1人の俺のおかげだ。
もう灰色の世界とは別れることが出来たのだ。そして新しい世界へと明日から踏み出すんだ。
「おやすみ、灰色の世界。そしておはよう、新しい世界」
明日の自分へと希望を託すように俺は眠りについた。
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