深夜の邂逅

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深夜の邂逅

 夏の夜。  例年なら、花火だ祭りだ帰省だキャンプだ海だ山だと賑やかな世の中も、今年はめっきり大人しい。  世界的なパンデミックのお陰で、うかつに遠出が出来なくなっているからだ。  まあ俺の日常は、基本インドアなんでいつもとさほど変わらない。  この日も俺は、アパートの一室、PCの前で次の小説のキャラ造形を考えていた。  別に作家様とかじゃない。あくまで趣味で書いてる文章だ。  翌日から会社が休みなもんで、ここぞとばかりに最近持て余していた創作意欲をぶつけようと、風呂や夕飯をさっさと済ませ、いそいそデスクに向かった次第だ。 (——読者が想像しやすいよう、大きな特徴をつけてみたいな)  最近読んだ、ハウツーのワンポイントアドバイスを試してみようと思った。キャラクターの外見描写を入れること。  どうせなら大胆な特徴を。それならファンタジーだ。ラノベは基本面白けりゃ何でもアリだから。  しかし『面白い』と一口に言っても、その分野は多岐にわたる。何を書きたいか、まずそれが定まらなくては。  俺はうんうん唸りながらコーヒーをがぶ飲みし、やがてトイレに立つ。  ダメだ。『面白い』の方向性は無限にある。  物語を書くにはある程度、的を絞る必要があるが、何か核になる部分……そのとっかかりになるものが、どうも思いつかない。  それさえあれば、なんとか進めていける予感はあるんだが。  そうモヤモヤしながら、目を前に向けると。  ——灯りの消えた暗い廊下と、その先にある玄関扉の前に、何故か黒髪の女が佇んでいた。  鍵はもちろんかかっている。  そこに人がいるはずはなかった。
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