11.今のお前を救えるのは……

1/2
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ

11.今のお前を救えるのは……

「はいもしもし! 絶好のタイミングだよ。楓寧」  打ち明けるまでは決して悟られないように、風哉は意識的におちゃらけた声を出した。 「おい風哉。LINE読んだぞ。俺に頼みたいことって何だよ?」 「あっ。えっと……。それは──、」 「お前が俺に頼みごとって珍しいな……。『ちょっと楓寧に頼みたいことがあるんだけどいいかな?』って回りくどいし。内容を伏せた理由は大事な頼みごとで言いづらいからじゃないのか?」  風哉は汗ばんだ手でスマートフォンを耳に当て直した。 「いや、別に大した頼みごとじゃないんだ。ただちょっと困ってることがあって……。それを解決するために楓寧に協力して欲しいミッションがあるんだ。それはね。あいつらに虐めをやめさせてお友達になる難易度S級ミッション!」 「はぁ?」  素っ頓狂な声を上げた楓寧は多分、怪訝そうな表情をしている。 「虐め? ミッション? いやまずあいつらって誰だよ?」 「中園優護(なかぞのゆうご)赤西裕平(あかにしゆうへい)野澤遥輝(のざわはるき)。あいつらとはこの三人のことで……」  他人事のようにスラスラと説明するつもりで喋り始めたのにいざ打ち明けるとなるとやはり躊躇してしまう。言いたくない。知られたくない。 「風哉くん」  突然スマートフォンを当てていない方の耳元で女性の声が聞こえた。誰だろうとぼんやりと考えてハッと我に返る。右横に顔を向けると海結が不安げに見詰めていた。  風哉の右手をぎゅっと握って薔薇色の口紅を塗っている小さな唇をゆっくりと動かす。目を凝らすと──わ・た・し・が・い・る。そう読めた。  私がいるから大丈夫だよ。去年からずっと海の底に沈んだままでもうすぐ息絶えそうな今だけは、そのように都合よく解釈しても許されるだろうか。 「俺はこの三人から虐めを受けている」 「いじめ?」 「うん。俺、虐められてるんだ」  あんなに言いたくなかった言葉をすんなり言えたのはきっと、独りではなく海結が傍にいてくれているからだ。 「……嘘だろ?」 「嘘だったらいいんだけど、残念ながら嘘じゃない」 「嘘だ……。だって……お前、全然そんな素振り見せてなかっただろ。普段も部活ン時も普通だ…………」  楓寧の声が徐々に小さくなっていきやがて聞こえなくなった。心配になって耳を澄ませた時にコトッという音が鳴った。続いてみじろぎするような音、キィと何かが軋む音、そしてペタペタという音が聞こえた。  まさか、と風哉は嫌な予感がして大きく息を吸い込んで声を張り上げた。 「ちょっとストップ楓寧くんッ!!」
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!