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うわずった声が聞こえた気がして「んん?」と首を傾げた時にちょうど顔を包んでいた両手が離れる。
「俺は海結のことが好きです。もし良かったら俺と付き合ってくれませんか?」
「何それ何それ何それ────!?」
悲鳴が喉から飛び出た。胸が高鳴る音がおめでとうと祝福してくれているように感じるのはきっと浮かれている。浮かれてもいいのだろうか。喜んでも大丈夫なのだろうか。
「返事は急かす気はないよ。今日じゃなくていつでもオッケーだし、断っても俺が海結を嫌いになることはな──、」
「私も好き!」
待ちきれなくて風哉の言葉を途中で遮って告白の返事をしてしまった。口に出してみて初めて、本当はずっと自分の気持ちを風哉に伝えたかったのだと気づく。
「本当に、好きなの?」
「好き好き大好き!!」
迷いなく答えた後に理由を付け足した。
「あのね。私、岩渕くんを虐めてた赤西くんに、嫌がってるからやめなよって注意した風哉くんを見て好きになったの」
風哉は無言で深く俯いて、やがて唇の隙間から「よかった」という震えた声が漏れる。
「両想いだ……。正直断られるんじゃないかってめちゃくちゃ不安だった。でも……。俺は嘘吐きだよ。付き合ってから後悔するかもしれない」
「後悔しないよ」
「……どうして?」
「風哉くんは人を傷つけるような嘘は吐かないもん」
「……そうかな? 俺は海結を傷つけたよね? 俺が彼女がいるって嘘吐いた時に海結は凄く悲しい顔してた。俺の嘘で海結は傷ついたんじゃないの?」
「風哉くんの愛の告白によってその傷はもう完全に塞がれましたので心配いりません!」
海結は一息で言った。ホワァー、とカラスの気が抜けるような少し下手くそな鳴き声が聞こえた後で「海結」と名前を呼ばれる。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
海結は微笑んで「ねぇ恋人繋ぎがしたいんだけどダメかな?」と耳打ちした。
「……恋人繋ぎ。俺たち、めでたく恋人になったんだもんね。ダメなわけないじゃんもちオケだよ! もちろんオッケー♪」
風哉はそう答えてから海結の指の間に自分の指を絡ませた。
と、聞き馴染みのある着信音が鳴る。だが海結が設定した音楽ではないので視線は自然と風哉の顔に向く。予想通りジーパンの左ポケットからスマートフォンを取り出して風哉が電話に出た。
「はいもしもし! 絶好のタイミングだよ楓寧」
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