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慌ただしい足音が聞き取れた後に、「何だよ」と不機嫌そうな声が返ってきてほっと胸をなでおろす。
「お願いだから自分で自分を傷つけるのはやめて欲しい」
「おっ、お前! ビデオ通話してねぇのに何で分かったんだ!?」
「今、携帯置いて椅子から立ち上がって壁に頭をぶつけようとしてたでしょ」
「お、おう……。何で分かったんだ?」
「やっぱり……。ぶつけようとしてたんだ。よかった急いで止めて。もし楓寧が虐められてることに気づけなかったら、俺も頭をぶつけて自分を罰するだろうから」
楓寧が黙り込んだのか、電話の向こう側がまた静かになる。
「気づけなくて本当にごめんな……」
再び聞こえた親友の弱々しい声に思わず泣きそうになって必死に堪えた。
「気づけなかった自分が憎い。でも。どんなに後悔したって過去には戻れないもんな。現在から過去に戻ってお前が遥輝たちに傷つけられる前に救うことはできない。それなら……過去のお前を救えないなら今のお前を救う」
救う、と言われた途端に堪えていた涙が今にも溢れ出しそうになった。
「今のお前を救えるのは今の俺だけだから」
普段の楓寧なら絶対に言わないだろう言葉を今の楓寧は迷いなく言う。風哉は徐に口を開く。
「あ、り、が、と、う」
声が震えたりうわずったりしないように充分に気をつけて言葉を発したせいでぎこちない日本語になった。うわっ絶対笑われる。案の定鼻で笑われたのでむっとする。
「笑わないで欲しいなぁ」
「悪ぃ。でも震えてる方が人間らしくて安心するから無理に取り繕わなくていいぞ」
俺も震えてるし、と呟いた楓寧の声は確かに震えていた。妙に安堵して風哉が「分かった」と震えた声で言うと「おう」と楓寧も震えた声を返した。
「……なあ」
「うん」
「確か……虐めをやめさせるって言ったよな?」
「うん。やめさせて友達になる!」
「何で友達になりたいんだよ。虐めをやめさせる過程でボコボコにしたら駄目か?」
「駄目に決まってるだろ。実は今日、初めて裕平と優護にやり返すことができたんだけど……スッキリするどころか嫌な気分になった。ずっと同じ目に遭わせてやりたいって思ってたのに不思議だよね……。でも。その時に気づいたんだ。俺がやりたいのは復讐じゃないんだなって」
「そうか……。お前がしなくても俺は必ず復讐するぞ。止めんなよ」
「嫌だ。全力で止める」
「止めんな。お前は何で優護たちと友達になりたいんだ?」
「止めるよ。復讐に取り憑かれて欲しくない」
「取り憑かれない。……心配なら見張っとけ。お前がやめろって止めたらすぐやめるから。で、何で友達になりたいんだよ」
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