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若者たち
前線へ向かう兵士達の大移動がいよいよ始まった。まずは最前線へ向かう精鋭部隊が行動を開始した。
多くの兵士達が本陣に向かって一礼して通り過ぎて行く。そんな中で——
先ほど俺を睨みつけていた、人間族最強の魔導士と名高い炎の令嬢と呼ばれる少女が俺の横を通り過ぎようとしていた。年はリューセイやマナブよりもまだ若く、確か15歳ぐらいだったと思う。
「アンタ、もうちょっとシャキッとしなさいよネ! 絶対ヤラレるんじゃないわヨ! いいわネ!」
憎まれ口を残し、令嬢は最前線へと向かった。この少女、口は悪いが根はいい子なのだ。
もし、戦争なんてものが起こっていなければ、伯爵令嬢であるこの少女は、きっと今頃、社交界の花として愛でられていたことだろう。
「カイセイ様、どうぞご無事で。あまりご無理なさいませんように」
俺の身を案じる言葉を残し、水の聖女と呼ばれる少女も敵が待つ戦場へと歩みを進めた。
彼女こそ人間族最強の魔導士であると言う者もいるほど、魔法の技術は高みを極めている。
年齢は炎の令嬢と呼ばれる少女とそう変わらないはずだ。住民からの信頼が厚い、心優しい聖堂士だったと聞いている。
彼女達と同様に、年の頃10代であろうと思われるこの世界の若者達も、次々と最前線へと向かって行く。彼ら彼女らは俺の姿を見つけると、決まって俺に—— 人間族軍で唯一情報収集系スキルを有するというだけで、他になんの取り柄もないこの俺に、羨望の眼差しを向けてくる。
やめてくれ!
罪悪感で、心がどうにかなりそうだ…………
そんな気持ちを悟られまいと、持ちうる限りの理性を総動員して、俺は兵士達を見送っていた。その時——
「おいっ! リューセイ、マナブ! なんでお前ら、そんなに早く出発するんだよ!? お前らが布陣するのは中軍だろ!?」
俺は大声で二人を呼び止めてしまった。
「なに言ってんスか、アニキ! 先週の戦いで、大勢ヤラレちまったでしょうが! それで、俺もマナブも晴れて、前軍に配置換えってヤツですよ!」
リューセイが笑いながら、大声で答える。
「リューセイ君は大げさだな。前軍って言っても、すっごく後ろの方なのに。心配しなくても大丈夫ですよ、カイセイさん! いつも通りやるだけですから!」
いつも通りの笑顔で、マナブも俺に向かって返事を返す。
「おい、 お前ら絶対に死……」
『死ぬな』、『生きて帰れ』という言葉を口にするのは軍規違反だ。ここは『手柄を立てて来い』と言わねばならない。しかし、俺は——
「おい、お前ら! 魔人族なんてサッサとやっつけて、北の街でまた食べ歩きの続きをしようぜ!」
俺はまた、大声で叫んだ。
「もう、カイセイさん、それフラグですよ!」
大笑いしながらマナブが叫ぶ。
「そう言うなよマナブ! アニキはおっさんだから、わかんねえんだって!」
リューセイも笑いながら後に続く。
「とにかく、いつも通りやるだけですよ。それじゃあ、行ってきます。『女神様のご威光を』!!!」
「アニキ、行ってくるぜ! 『女神様のご威光を』!!!」
右手の拳を高らかに掲げて、青年達は声を張り上げた。
「なんだよお前ら。すっかりこの世界に馴染んじまいやがって。ああ、やってやれ! 魔人族の連中に女神様のご威光を示して来ヤガレ!」
俺も力一杯拳を掲げ、大声で青年達の覇気に応じた。
「女神様のご威光を!!!」
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