むかしばなし

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むかしばなし

 俺は今、人間族連合軍が布陣する小高い丘の上に身を置いている。魔人族領南部最大の要害フリーデンの城郭都市は、まるで眼下から俺を挑発するかのように、その雄大な姿を平原の中に横たえている。 ♢♢♢♢♢♢  俺の名前は岸快晴(きしかいせい)。早いもので、今年、(よわい)40を迎えることになった。  俺がこの世界に転生したのは4年前。日本で交通事故に遭いあっけなく死んだ後、慈悲深い女神のおかげで、俺はこの世界に転生することになった。  あの日から約3年間、冒険者となった俺は苦しいながらも、この世界の友人や、日本から来た転生者仲間に励まされながら、なんとか毎日をそれなりに過ごすことが出来ていた。  そんな日常が壊れたのはあの日…… 今から半年ほど前、大陸北部を支配している魔人族が、なんの前触れもなく突然人間族の街を襲撃したのだ。  その後も魔人族軍の勢いは止まらず、わずか数日の間に人間族領北部にあった大国キタノ王国は壊滅。この蛮行に戦慄(せんりつ)を覚えた人間族の王たちは、各国の利害を一旦棚上げし、人間族連合軍を結成することに合意した。  しかしながら初動の遅れを取り戻すことは難しく、結局魔人族軍の勢いを止めることが出来たのは、人間族領にあるもう一つの大国ヒガシノ王国の約半分が焦土と化した頃だった。  猛威を振るっていた魔人族軍の進行がどうして止まったのか。それは俺達転生者が人間族軍に力を貸したからだ。  当初、俺達転生者は、魔人族の襲来という衝撃の事実を前にして、ただ立ちすくむことしかできなかった。それが転生者のなかの一人が参戦し、二人が参戦し…… 気がつけば、多くの転生者が人間族と共に魔人族との戦いの場に身を投じていた。  魔人族との戦闘に加わった転生者のうち、ある者は、このような魔人族の残忍極まる行為など決して許されてはならないと言い、またある者は、人間族の友人を殺された(かたき)を討つと言っていた。更にある者はこう述べていた。この世界で出会ったかけがえのない恋人への(とむら)いだ、と。  この時、俺も魔人族との戦いの中に身を投じる決意をした。理由は…… いろいろだよ。とても一言で語ることなんて出来やしないさ。  その後俺は、いや我々人間族軍(・・・・・・)は、人間族領に残った敵、そう我々の敵(・・・・)魔人族軍の掃討に成功。その後多くの人間族有志を吸収しながら、我々は遥か北の彼方にある敵の本拠地目指して進軍を開始したのであった。
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