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メルリア・ベルは世話焼きである。それが長所であり短所でもあった。
メルリアがエピナールへ向かっていると、空から突然財布が降ってきた。メルリアは地面に落ちた財布を拾いあげる。革袋の薄汚れたそれはずっしりと重い。疑問に思い空を見上げると、ほうきに乗って空を飛ぶ魔術士の運び屋が、ふらふらと危なっかしい軌道を描きながら飛んでいた。メルリアは慌ててここ数年出していなかった大声を上げ、財布を持ちながらその魔道士を追いかけた。二十分にも及ぶ働きかけにより、ほうきを操縦しながら眠っていた魔術士は目を覚まし、無事メルリアから財布を受け取った。
気を取り直して再びエピナールへ向かうメルリアは、街道から少し外れた道で茂みを探す女性の姿を見つける。どうしたのかと尋ねると、女性が一緒に旅をしていた愛犬がいなくなってしまったという。街道は安全ではあるが、道の脇にある茂みや森となると話が異なる。攻撃的な野生動物や魔獣に襲われるかもしれないからだ。とはいえ女性を放っておくこともできず、メルリアは女性と共に人が入ってもギリギリ安全な範囲で犬を捜した。奥へ奥へと入ろうとする女性を宥めながら一時間捜索を行ったが、犬は見つけられない。しかし数十分後、街道を巡回していた衛兵が発見し、保護したところで犬捜しは解決した。
極めつけに、「ママが帰ってこない」と泣きわめく五歳の男の子の面倒を、母親が探しに来るまで付き合った結果、すっかり夕方になり、空は眩しいほどの橙色に染まっていたのだった。
「えっと……。確か、こっちだった、はず……」
メルリアは一人、街道を進んでいた。「この先、エピナールの村」と書かれた看板を暗がりの中なんとか解読し、真っ暗な道を歩いていく。この国の街や村の周辺には、魔獣を避ける対策が施されている。人間の生活圏に影響を与えないよう、かつ野生動物の生活圏を侵さないよう、魔術士が街道と森の間に薄い結界を張っている。とはいえ、その効果は街道を行く人間の姿が認識できなくなるだけであるから、普通に街道を通る野生動物や魔獣が道を堂々と歩いている様は珍しくない。
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