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「はい、このまま向こうを真っ直ぐ行けば大丈夫です」
向こう、とメルリアは自分が歩いてきた道を指差す。すると、困惑していた男の顔が明るく変わった。
「ありがとうございます」
男に軽く会釈をした後、男はメルリアの進んできた方面へと歩いて行く。目を細め、道の先にある緑を眺めると、メルリアは再び前を向いて歩き始めた。
そのまま道を真っ直ぐ北へ進んでいくと、東と西への分かれ道に差し掛かった。東には王国都市ヴェルディグリ方面、教会のエピナール方面。西は花の街グローカス、外国ルーフスとの国境セラドン、外国オウコウとの国境グリニッジ。メルリアは東方面への看板をじっと見ながら、指をヴェルディグリ、エピナールを交互に指差していた。
……まずはどちらへ向かおうか? 看板の文字を見つめていたメルリアの目がある文字に留まる。王国都市ヴェルディグリ。それはその名の通り王の住むヴィリディアン一巨大な都市だ。ヴェルディグリにある中央図書館には何万冊もの本が貯蔵されている。メルリアはあの花について何も知らない。まずは自分の探している花がなんなのか、名前を知るためにも真っ先に向かった方がいい場所だろう。
しかし、国の中で一番大きい教会のあるエピナールはここから近い。今は太陽が真上にいるが、急げば日暮れ前――遅くても日暮れ直後には余裕で間に合う。どちらにしても、今日中にヴェルディグリへはたどりつけない。ゆらゆらと動いていたメルリアの指が、ぴたりと止まる。
「……よし」
エピナールに向かおう。まずは教会でお祈りしておこう。まだ始まったわけじゃないけど、頑張ろう――。
心の中で呟いて、メルリアは分かれ道を東に真っ直ぐ進んでいった。
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