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図書室は、まるで呼吸しているようだった。
静まり返っているはずなのに、森の木々のようにひしめく本たちが、そこかしこで息づいている。
そして、夜更けに侵入してきたマリーナを、見ている。
白のシュミーズドレスにガウンを羽織っただけのマリーナは、本の気配をひしひしと感じながら、燭台をテーブルの一つに置いた。
窓から、濡れたような月の光が差し込んでいて灯りはじゅうぶん。
読みかけの本を置いた書き物机に向かって、歩き出した、そのとき。
すうっと誰かの呼吸が聞こえた。
ぎくりと足を止めて、辺りを見回す。
それは、二人がけのソファの背もたれに寄りかかり、腕を組んで、頭を垂れていた。
滴る月光に映える長い銀髪。持て余し気味の手足。うなだれているせいではっきりわからないが、細身であっても肩幅は広そうで、立てば身長もありそうだった。
これまで、屋敷の中では見たことがない相手。
マリーナは、立ち止まったまま、じっと様子をうかがう。
すう、すう、と安らかな寝息を立てているそのひとは、まったく起きる気配はない。
しっかり寝ていると確信し、マリーナは素早く目当ての場所まで駆け寄り、本を手にする。
もう一度相手を見てから、窓際まで本を持って行った。
立ったまま、月明かりで、読みそびれた数ページをすばやく読む。
読んだら、すぐに立ち去る。
そのつもりだったのに、よりにもよって読んでいたのは、行き違いのあった家族が和解する泣かせ系ヒューマンドラマだった。
涙が溢れ出し、いつの間にかむせび泣いていた。
すん、すん、と鼻をすすりながら、本を濡らさないように気をつけつつ、手の甲でぐしぐしと涙をぬぐう。
その手元に、白いハンカチがすっと差し出された。
「あら、ご親切に、どうもありが」
言いかけて、マリーナは続きの言葉をごくりと飲み込む。
(ハンカチ?)
本に夢中になるあまり、その場に見慣れぬ人物がいたことなどすっかり忘れ去っていた。
かくかくとした仕草で顔を上げると、銀髪を肩に流した、背の高い青年がすぐそばに立っていた。
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