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ため息がこぼれた。
行為を終えた後、こんな風に思考が後ろ向きにループすることはいつものことで。
彼女が口を開き、ややかすれた声で言ったのは、そんな時だった。
「──あの、創太郎くん。あまり、見ないで欲しいんだけど」
「え?」
「……してる時に創太郎君、ずっと私の顔を見てくるでしょう?いつも」
「うん。そうだね。ずっと見てるね」
「は、恥ずかしいから、あまりまじまじと見ないでいただけると、助かります……」
どう答えたものか、一瞬迷う。
なぜなら、行為の最中に彼女の顔を見ないようにするというのは、俺には到底無理な話だったので。
彼女と暮らし始めてそれなりの時間が経っているが、つまり彼女は、俺の性分というものをまだよくわかっていないのだった。
とりあえず、彼女の言葉には答えずに、薄い布団から見える範囲の、彼女の肌を観察する。
一番最初につけた左側の鎖骨のキスの跡は、やや色が薄くなっているように見えた。
そこから上の、首筋から肩に至る稜線には薄っすらと歯形がついていて。
これもそれなりに、目立たなくなってきている。
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