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「遅いじゃない、アタシらお腹ペコペコよ」
わざとらしく、ぶうと頬を膨らませマガズミはあーだこーだと文句を言っている。
それを聞きながら顔をしかめた洋平の頭には、肉を渡さないという選択肢が浮かんできていた。
「うるせーな、なんもしないで飯を食おうってのが図々しいんだよ」
「あら、じゃあ別に手伝ってやってもいいわよ? アンタとあいつがアタシらの素性を上手に説明できるなら、ね」
そう言ってニマニマと笑うマガズミに、洋平は小さな舌打ちで返答した。
マガズミの言い方は癪だが、洋平と一輝は二人の存在を友人たちに違和感なく説明できるほど口が上手くない。
サグキオナはともかくとして、マガズミの日本人離れした容姿では何を言っても怪しまれるのがオチだ。
「おら、宇佐美に感謝しろよな」
洋平は持ってきた箸と紙皿、焼き肉のたれを手渡す。
それをマガズミは嬉しそうに、サグキオナはいつもどおりの無表情で受け取った。
「はいはいどーもどーも、後は食べ終わったらこっそり皿とかは捨てとくわ」
「そうしてくれ、くれぐれもバレんなよ」
「はーい」
気の抜けた返事をするマガズミを見て、洋平は何かを言いかけた。だが彼の口から漏れたのは、一つの大きなため息だけだった。
友人たちの輪の中に返っていく洋平を見送り、マガズミたちは肉を食べ始める。
「んがっ……ちょっと焦げてるじゃんこれ。サグちゃんこれあげる」
「いりません、焦げた肉には有害な物質が含まれています」
「いやいや、アタシらにそういう概念ないじゃん」
「確かに体にはこれといって影響はありません、ですがそもそも焦げた肉は味が悪い。食べる意味がありません」
マガズミは仕方なく焦げ肉にたれを濃い目に付けて、口の中に放り込んだ。
ジャリジャリと焦げを味わいながら、マガズミは隣でモグモグと口を動かすサグキオナを見た。
焦げた肉は味が悪い、神であるサグキオナの口からその言葉が出る。
それはマガズミにとって、とても嬉しく意味のあるものだった。
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