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第一章 邂逅 一話 雨空に笑う
夜から降り出した雨は、朝になっても上がらない。
部屋の中はひんやりとした、何となく水気を含んだ嫌な空気が漂っていた。
「だっる……」
洋平がベットから体を起こすと、何となく頭が重い気がした。だがそれはいつもの事で、むしろ最近は朝起きて体のどこかに異常が無い事の方が珍しい。
ノロノロとベットから降りると、洋平はいつもより憂鬱な気分で部屋を出た。
「あら、今日は早かったじゃない」
沢田京子は、忙しく家事に励んでいた。
京子は五時には起き、掃除や朝食の用意などを手早くこなす。そんな京子の朝の仕事の中には、息子を起こすというものがあったため珍しく自分で起きてきた息子に驚いていた。
「まあ……たまには」
「あっ洋平、洗面所に行ったら棚に歯磨き粉あるから出しといて」
寝ぼけたままの洋平は、京子の言葉に適当に返事をし洗面所へ向かう。
顔をぬるま湯で洗うが気分は晴れず、何となく体調も優れない。洋平はいっそ学校を休んでしまおうかとも考えたが、『体調が悪い気がする』という曖昧な理由で京子を説得できる気がしなかったため諦める事にした。
洋平が戻ると、リビングに朝食が用意されていた。
ご飯、目玉焼き、味噌汁、普段通りのよく見る朝の献立だ。
「父さんは?」
「また仕事で泊まり、最近は特に忙しいみたいよ」
予想していた回答を聞きながら洋平はテレビをつける、画面の中に中年のアナウンサーが映し出された。
ニュースの内容は、洋平の住む町で起きている連続殺人事件についてだ。
すでに六人の人間が殺されており、被害者は全員が無惨な姿で発見されている。
「朝から暗いニュースばっかりね」
京子は心底うんざりした様子で画面を見ている、そう言いたくなる気持ちを洋平は理解していた。
連続殺人だけでなく、最近では行方不明者が出たり原因不明の不審死が続いたりと洋平の町は何かと暗いニュースが多い。
「あんたも遅くならないように帰ってきなさいよ?」
「分かってるよ」
京子の心配癖を若干鬱陶しく感じながら、洋平は味噌汁を啜った。
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