夢職人

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 家に帰ると、父と母と一緒にご飯を食べ 、今日の出来事を話した。少し妄想を組み込み、好きな女の子が彼女だという設定にして親に話す。父が目を見開いて仰天する一方、母は何故かそれを知っていた。「最近楽しそうだもの」と言う母の顔は嬉しそうでもあり、寂しそうでもあり、不安そうでもある。  二階の自室に向かおうとすると、階下から父と母が見上げている。「おやすみなさい」「うん。おやすみ」。  夢はそこで終わった。丁度紙芝居も終わりを迎える。  機会が吐き出した紙芝居を手に、作業机に戻ると、植木鉢に向かって雨が降っていた。久方ぶりに降り注ぐ涙だ。虹色の花はすっかりくたびれていたが、花びらを涙が濡らすと静かに起き上がり、サッと美しい七色を取り戻す。  徐々に作業環境は元に戻って行き、持ち直したのだと証明してくれた。【心】からのお礼の便りが届いた。他の部位からの手紙も復活し、ようやっといつもの夢が描けるようになった。ただ、以前とは違い、夢職人は夢にお便りとは関係の無い妄想や理想を組み込んでみたり、現実を歪曲して描いたりした。それでも機械は読み込むのだからと、意地の悪い夢を見せる日も多くなる。けれど理想を組み込んだ紙芝居程、評価は高くなっていった。  【心】からお礼のお便りが届いた日、【目】からのお便りも同時に届いた。【目】のお便りは文面ではなく夢職人と同じ映像だ。珍しく何か印象的な出来事があったらしい。映像には、鏡に向かって浮かない顔をする少年が立っていた。それが自分の体の主であると夢職人は初めて知った。今までは少年目線で夢を描いていたため見たことが無かったのだ。  少年は鏡に顔を近づけ、頬にできた赤い腫物を軽く触った。ニキビだ。  夢職人はニキビを気にする少年を見て、合点がいって一人頷いた。  「そういうことか」
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