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李音は眉根を下げた。
「ほら……僕、『ゲイ』って言われたじゃん。それでいじめられて転校して。僕と有斗よく一緒に居たからさ、有斗も揶揄われてたでしょ」
それは高二の夏くらいだっただろうか。
見た目が可愛らしく、常に俺といたがる李音はどこか浮世離れしていて、そのせいかいじめられた。
そしてクラス中で、『橋本有斗と堀田李音はゲイカップルだ』と揶揄された。
本来なら怒ったり、悲しむのだろう。だが、俺は心の奥深くで、それをどこか喜んでしまっていた。
でも、李音の悲しそうな顔を見るたびのその気持ちを封印していくしかなかった。
李音が転校するとあっさりと噂は消え去り、同時に堀田李音という存在も皆の記憶から消えていった。
「ううん、大丈夫だったぜ。俺がお前を忘れてなかったのはそういうネガティブなもんじゃないから」
勢い余って言いすぎた。口をつぐむ。
テーブルの柔らかい木目を目でなぞった。
「ありがとう」
「どーも」
「明るい話しよっか。そうだな、今彼女いるの?」
そうだな、と言っていたが聞くことが決まっているような口振りだった。
微かな違和感を感じながら首を振る。
「いねーな。李音は?」
「いない」
「お互い様だな」
彼氏と彼女。俺は恋なんてできない。好きな女なんて出来ない。
部活で李音と出会い、美しい歌声を聞いた時のときめきに勝つものは何一つないのだ。
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