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「へんな事しないって言ったのに!!クソ野郎!!」
「お前たまに口が悪くなるよな」
「お前のせいだろ!!!」
「えー、そうかなぁ」
全く反省してないような声の三田村は、ソファーに沈んだオレの背中に張り付いた。
「ちゃんと髪、乾かせよ」
張り付いたままで、三田村はオレの頭にタオルを乗せわしわしと拭いてきた。
脱衣場からソファーのあるリビングに来る前に着替えてはきたのだが、三田村はどうやら直行したみたいだ。ちらりと腰にタオルを巻いているのが見えた。
お前だって髪の毛乾かしてないんじゃないか?と突っ込みたいが我慢する。
「香川」
「……」
「別にへんな事はしてないじゃん」
「はぁ?!しただろ?!」
体重を掛けないように乗ってはいるが、密着した背中が熱い。この部屋はまだクーラーの冷気に満たされていないのだ、乗ってくるな。
がしがしと肘で三田村の腹辺りを押し返してみるが効き目はない。
「退けよ!」
「怒ってるの?」
「見て分からないのかよ!?」
うーん、とか何とか頭の上で聞こえてくる。
ソファーと言っても足を伸ばせる程広いものではない。そこに半身うつ伏せになった上に三田村が覆い被さっているので狭い。
「香川~」
機嫌を取るような甘えた声。猫なで声とでも言おうか。
「なぁ、香川の好きなもの何でも作るよ」
馬鹿かお前は。子供でもあるまいし、そんな事で機嫌が直るとでも思っているのか。そもそも。
「そんなのいつもの事だろ!」
「んー、そう?」
何で嬉しそうに聞いてくるんだ、ムカツクな。また肘鉄してやろうと思ったが、疲れるだけなので止めた。
「ピザ」
「え?ピザ?」
「ピザ」
「あー……材料ないなぁ……小麦粉だけじゃピザ生地作れないよな、多分」
「もー、退けよ」
「はいはい」
渋々と言った様子で三田村はオレの上から退いた。
オレも半身を起こし、頭のタオルを首に掛ける。背凭れに体重を預け漸くほっと一息ついた。
「着替えて来いよ……」
「あー、うん」
早く何か着ろよ。割れた腹筋を見せびらかしたいのか?
ソファーに合わせて買った横長のローテーブルの上、放置してあったスマホに手を伸ばす。
三田村は少しだけ距離を空け座り、こちらを見ているが無視した。
「……何見てんの?」
「ピザ」
「……ピザ?」
「お前は?何食いたい?」
「え?!」
三田村は慌てたような声を出し、オレの方へ身を乗り出した。スマホを覗き込み、オレの顔を見る。
「デリバリー???」
「だからピザって言ってんじゃん、オレこれがいいかな、お前は?」
注文画面のメニューを見せてやると、三田村は唸るような声を出してから頭を下げた。今頃謝罪表明か?
「……ピザは今度にしようよ」
「何で」
「……そんなに怒ってるの?」
「……ピザ食いたい」
「……ごめんなさい……」
「ピザ」
「ごめんて……なぁ、機嫌直してくれよ……あの、今晩は何もしないから……」
「ピザ」
論点がずれてないか?
ピザと連呼すれば三田村は折れたのか、選ぶから貸してとスマホを取り上げてしまった。
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