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秘密、それは信頼?
『しゅーちゃんいま平気?』
奏と何度か鉢合わせ、そのたびに何か言われたり笑われたり、少しずつそういうものが日常になって、そのたびに誰かを探してはレスバに明け暮れていた――そんなある夜のこと。奏から、普段僕に接するのとはなんとなく雰囲気の違うメッセージが送られてきた。
普段ああいう感じだけど、やっぱり何かあったら僕を頼ってきてくれるあたり、もしかしたら思っていたより昔とは変わっていなかったのかも知れないな、少しだけ、本当に少しだけ胸を躍らせながら、僕は急いでメッセージを返した。
『今は別に予定とかないから平気だよ 何かあった? 僕でよければ聞くよ』
『ありがと』
『それで、どうしたの? 学校で何かあった?』
『うん あのね』
『奏?』
『やっぱいい』
えっ、なんでいきなり!? もしかして返信遅かったからかな……別に奏からの相談を受けたくないとかじゃなくて単純にこの手のアプリを使い慣れてないせいなんだけど!? 慌ててまたメッセージを返す。
『どうしたの!? 別に僕聞きたくないとか言ってないよね! 変な遠慮とかしなくていいからさ 僕は奏の力になりたいだけなんだよ! だから聞かせてよ、どうしたの?』
『ごめんね』
『別に謝ってほしいんじゃなくて僕はただ話を聞きたいだけだよ 謝らなくていいからさ、教えてよ 何があったの?』
それからしばらく、奏からの返事はなかった。もしかしたらきつく言い過ぎたのかもしれない――謝ろうとしたとき、奏からのメッセージが返って来た!
『ごめんね 言っていいのかなって』
『いいんだよ言って ちっちゃいときから一緒だったんだからさ』
『そっか』
短いメッセージのあと、また奏からの返事は止まった。一日千秋の思いというのを初めて体験したような気がする……そんなことを思いながらスマホの画面を見つめて固唾を飲んでいると、『しゅーちゃんって素直だね』というメッセージが届いて。
その意味を図りかねた僕の気配を察したかのように『だから話しやすいかな』という文が添えられて、奏の悩みというのが語られることになった。
簡単に言ってしまえば、奏の悩みというのは学校の友達との関係についての悩みだった。正直その煩わしさに耐えかねて学校に行かなくなった僕にアドバイスできることなんてほとんどなかったけれど、それでも、どうにか彼女の何かの答えを返してあげたかった――さんざん僕を嘲るようなことを言いながらも、どうにか頼ってくれた奏に応えたかったのだ。
あれこれ訊いて、どうにか奏が置かれている状況について把握する……そんな関係なら切っちゃえばいいじゃないかと言いたくもなったけど、どうやら奏自身はそんなことを望んではいないらしい。それを酌んで、それであわよくばそういうやつらよりも僕を信じるようになってほしいという下心も多少は込みで、いろいろ考えて。
『じゃあさ』
そこまで打ったときに初めて気付いた、メッセージの左下。普段使わないからまったく気にしていなかったが、このアプリでは相手がメッセージを読むと既読表示がつく――その既読が、メッセージひとつにつき5件くらいついていたのだ。
……え?
何、これ?
既読って、もちろんメッセージを読んだっていう証拠……だよな? それってこんなにいくつも付くものなのか? 読んでるのは奏ひとりのはずなのに?
そして、泳がせた目に映ったのは、連絡をしていたアカウントの名前。そこには『葉山奏(6)』と表示されていた――何の数字なのか、別に気にしてはいなかったけど、既読の数を見ているうちにふと蘇ってきた……クラスのグループアカウントが、ちょうどこんな数字付いてなかったか?
『奏?』
既読5。
『これ見てるの奏だけだよね?』
既読5。
『奏』
既読5。
……嘘だろ?
血の気の引くような思いがして、手が震えて、胃の奥が少しずつ熱くなっていくような気がして。
『しゅーちゃんおもしろいね』
その日は机の上にスマホを投げ出して、もうしばらく触ることができなかった。
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