プロローグ

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

プロローグ

時計のアラームで目が覚めた。ただ今の時刻、午前4時過ぎ。 「うっ、うう~んっ……! あ~、さむっ」  賃貸のワンルーム。15畳くらいある割と広めの部屋で、私は1人、ついつぶやく。もう初夏に入ったとはいえ、まだまだ早朝は冷え込む。 「……、ふあっ~。あ~、ねむっ」  やばい、寒さも手伝って、このまま二度寝をしたいところ。でも―――、  ベッドからゆっくり半身を起こした。傍にある窓のカーテンを開く。 「わあっ……! きれいっ」  まだ暗い雲一つない綺麗な空に、これまた綺麗な満月さま。 「うんっ、うんうん」  大潮。  今日はいっぱい……、釣れると良いなっ。  一気に眠気が覚めた。  ベッドから抜け出す。高ぶり始める気持ちが、心地良い。冒険に出かけるみたいで。 「よしっ、準備を始めますか! ……と言っても、もうあらかた済んじゃってるか」  ロッドに、クーラーボックス、それに、仕掛け道具やタオル、ハサミ、ウエットティッシュなどなど、必要なものを詰め込んだリュック。それらを部屋のドア付近にもう待機してある。  ふふっ、冒険に出かけるには、事前の準備が大切ですからねっ。 「完璧……、ん?」  ドア付近にメモを発見。私の字だ。 『石ゴカイ! それと、 氷!』  あっ……、まだ完璧じゃなかった。 「たはははっ……、肝心のエサを忘れるとこでした……」  冷蔵庫に向かった。扉を開き、新聞紙にくるまった包を取り出す。ついでに、冷凍庫から氷も。それらをクーラーボックスに収納っと。 「いや~、メモ書いといて良かった……」  忘れてたら、きっと皆にバカにされているとこだった……。  エサ無しで、どうやって『キス』を釣るんだよw  ってな感じで。 「それに―――」  遥(はるか)さんに白い目で絶対見られる。  この1年間の教えは何だったのかしら?(威圧感ばりばりの瞳で)  ピコンッ! 「ひゃっ!?」  急な着信音。慌ててスマホを取りにいった。その画面には、 「あっ、遥さん」  噂をすればなんとやら。 『千佳(ちか)、ちゃんと起きてる? 寝坊は厳禁よ』 「むう、遥さんってば……」 メッセージを打ち込む。 『おはようございます! ばっちり起きてますよ! 今日は、遥さんより数釣りますからねっ! あと、サイズもっ!』 『あら、言うじゃない? ふふっ、私も負けるつもりないからねっ。じゃあ、待ち合わせ場所でまってるから』 『えっ!? も、もう、着いてるんですか!? まだ、予定の時刻より、早いはず、ですよね?』 『早くこないと、置いてくわよ。それじゃねっ♡』 「ちょ!? そ、そんな!? あ~、もう!!」  私の師であり、仕事の上司でもある遥さんは、結構身勝手なところがある。ほんと、振り回される身にもなってほしいいいい!!  急いで着替える。そして軽くメイクも済ませて。汗や水に強いタイプ。あっ、日焼け止めもっ! 慌てながらヌリヌリ。 「それから、帽子に、あと、偏向グラス、っと! よし!」  もうこれで完璧!  荷物を抱えて、いざ外へ飛び出す。  去年は、遥さんに惨敗だった。だって私、素人だったんだよ? ロッドを握るの初めてで、アタリをとったのも初めてで。釣ったのも初めてで。  そんな私を見て、『せっかくだから勝負しましょ♪』って、遥さんは言ってきて。  くすっ。  思わず笑いが込み上げる。 「ほんと、そういう無茶ぶりは困る。でも―――」 『次は何を釣りに行く?』  遥さんの優しい笑み。   そのおかげで、私は―――、 「釣りにどんどんハマっちゃったからなぁ~。ふふっ、さてと! 1年間の成果を見せますか!」  急ぎ足で、月明かりに照らされた歩道を進んでいく。ほんの少し、周囲も明るみもおびだしてきた。  日出の雰囲気を感じながら私は、去年初めて遥さんと会った日を、そして、初めての『キス釣り』を思いだしながら、待ち合わせ場所へ向かって行った。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!