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おやすみ
あなたが、青い空に、帰った時
私は、さようならとは、言わなかった
ただ、泣きながら、おやすみ、と、言った
あなたとは、坂道で、出会った
駅前の、果物屋で、買った、りんごが
紙袋から、転がり落ちた時
あなたは、笑いながら、りんごを、受けとめた
急に、あなたが、現れて、私は、驚いた
あなたに、お礼を、言って、帰ろうとしたけれど
夕陽が、強く光って、私は、思わず見つめた
あなたも、同じだった
ふと、後ろを見ると、雨上がりでは、ないのに
虹がでた
七色の、はっきりとした、虹だった
私達は、なぜか、自然に、手を繋いだ
道端に、タンポポと、すみれが、咲いていた
タンポポは、冬にでも、咲くけれど
すみれは、春にしか、咲かない
あなたと、ふたりで、タンポポと、すみれを見た
【 タンポポは、冬にでも、咲くけれど、すみれは
春にしか、咲かないの。不思議でしょう? 】
あなたは、何も言わなかった
ただ、笑っているだけ
初秋の風が、吹いた時、りんごの匂いと
あなたの、爽やかな、香りが、伝わってきた
ただ、それだけ、それだけのことなのに
私は、あなたを、忘れられなくなった
あなたとは、手を、繋いだだけ
あなたに、会って、話をしたのは
たったの、五回だけ
でも、あなたから、沢山の手紙を、貰った
ある日、女性の名前の手紙が、来た
あなたの、お母様からだった
そこには、あなたが、病気であること
あと、何年、生きられるか、分からないと
書いてあった
あなたは、入院は、しなかった
私は、あなたに、会うことを、怖れた
あなたは、知っていた
自分の、病気のことを、、、
私は、あなたに、会っても、ただ、泣くだけ
あなたは、私を、抱きしめるだけ
そして、最後に、会ったのは、病室
あなたの、ベッドで、少し眠った
【 よく、眠れた? 】
と、あなたは、笑って言った
それから、あなたは、眠りだした
あぁ、もうこれで、、、
私は、あなたの頬に、何度か、キスをした
そして
おやすみ
そう言って、部屋を、出た
青い空を、見つめた。
あなたが、いるような、気がした
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